「ポーターのひとりごと」その4
読書の秋、ポーターおすすめの本を二冊ご紹介します。

垂直の記憶 岩と雪の7章
山野井泰史著 2004年山と溪谷社
1981年雑誌「岩と雪」に北アルプス北端、糸魚川市にある石灰岩の大岩壁「明星(みょうじ)山」P5南陵末端壁「愛のスカイライン」を単独登攀する記録が掲載されています。山野井さん当時高校生。ひとつ違いの私も岩登りに取り憑かれ始めていて、山野井さんの記事にすごく刺激を受けたのを覚えています。
その後も同じ時代にレベルは全然違いますがクライミングの潮流を体感してきたので山野井さんの活動、挑戦には私も気持ちが乗り移り熱くなりました。

そして数々の独創的な山選び、壁、ルート、スタイルで困難な登攀を綴った山野井さん選りすぐりのアルピニズム記録集がこの「垂直の記憶」です。
究極の登攀活動はその記録を外部が発信することができない。登った本人が綴った文章しかない。小型カメラ、ドローンなど現代は映像技術が進化していますが、精神面を含めたリアルな世界はやはり本人の執筆した一冊にかなわないと思います。
登山やクライミングをされていない方にも生身の人間が、強烈な力を持つ自然に生きることの全てを打ち込んだ「登り」はきっと伝わると思います。
文庫本も出ています。ぜひ一度手に取ってページをめくってみてください。
そして、まほろばハウスの庭石に山野井さんが描かれたクライマーの絵もぜひ見に来てください。


そしてもう一冊は、山野井泰史さんの伴侶でもある妙子さんの生きざまを柏澄子さんが克明に綴られた「凪の人」です。
山野井さんとご結婚される前の旧姓は長尾妙子さん。東近江市の能登川町にご実家があり八日市高校を卒業されています。
1980年代の妙子さんはアルパインクライマーとして後に夫となる泰史さんより活躍されていました。当時のクライミングジャーナルのインタビュー記事は何ページにもなり注目がとても高いことを覚えています。
その記事の最後にこんな記述があります。
「妙子さんはどんな人と結婚されるんでしょうね?」と。
夫婦で挑んだギャチュンカン北壁の壮絶な登攀は「垂直の記憶」の最終章、必ず読んでみてください。
「凪の人」は自身のことを語らず書き残してらっしゃらない妙子さんのことを親しい著者柏澄子さんが取材を積み重ねて書き上げられました。
いつも心静かな妙子さんと厳しい自然に身を置くクライマーとしての妙子さんの姿を通して泰史さんとは違う生き方を感じることができます。
毎日を淡々と丁寧に暮らす。忙しい現代にあってもその暮らしを続けられていることは清々しく、読んでもらえば皆さんに伝わると思います。
「垂直の記憶」と「凪の人」この二冊を合わせて読むことで、自然体でいることが生きることなんだと、その気持ちが読み手にも伝わってくきます。
素敵な本の旅になりますように。


